一手先を読む力が人生を変える|セカンドオーダー思考――「そして、どうなる?」で未来を見抜く意思決定

メンタルモデル

一手先を読む力が人生を変える
セカンドオーダー思考――「そして、どうなる?」で未来を見抜く意思決定

セカンドオーダー思考 (Second-Order Thinking)

チェスや将棋の名人と呼ばれる人々は、盤上の駒を動かすとき、その一手が生み出す直接的な結果だけを見ているわけではありません。彼らは、その一手によって引き起こされる相手の反応、さらにその先に続く何手もの展開、つまり「結果の連鎖」を読んでいます。

私たちの日常やビジネスにおける意思決定も、これとよく似ています。「セカンドオーダー思考(二次的思考)」は、まさにこの「一手先を読む力」を体系化した思考モデルであり、目先のわかりやすい結果だけでなく、その先に隠された複雑な影響まで見通すための強力なレンズです。

「一次思考」と「二次思考」の違い

このモデルを理解するために、まずは二つの思考レベルを対比してみましょう。

一次思考 (First-Order Thinking)
これは、物事の直接的で、すぐに目に見える結果だけを考える、表層的な思考です。迅速でシンプルですが、誰にでもできるため、このレベルの思考だけでは平凡な結論にしか至りません。

例:「お腹が空いたから、ケーキを食べる」→「おいしくて満足感が得られる」

セカンドオーダー思考 (Second-Order Thinking)
これは、一次的な結果の、さらにその先に連鎖していく二次的、三次的な影響までを深く考える思考です。より複雑で時間がかかりますが、物事の全体像を捉え、長期的なリスクや機会を発見するために不可欠です。

例:「ケーキを食べる」→(一次)「おいしくて満足」→(二次)「そして、どうなる?」→「血糖値が急上昇し、その後急降下して眠気やだるさを感じる」→(三次)「そして、どうなる?」→「この行動が習慣化すると、体重増加や健康問題につながる可能性がある」

投資家のハワード・マークスが広めたこの考え方の核心は、「そして、どうなる? (And then what?)」という問いを繰り返し投げかけることにあります。

なぜ二次思考が重要なのか

目先の結果だけを追い求めると、長期的には意図せぬ深刻な問題を引き起こすことが少なくありません。

ビジネスの例:値下げ戦略
ある企業が売上を伸ばすために商品の値下げを決定したとします。

一次思考:価格が下がる → 買いやすくなる → 短期的な売上が増える。(成功だ!)

二次思考:売上が増える。そして、どうなる?

  • 利益率が圧迫される。
  • 顧客が「このブランドは安いのが当たり前」と認識し、ブランド価値が低下する。
  • 競合他社も値下げで追随し、業界全体が消耗する価格競争に陥る。
  • 将来、元の価格に戻すことが極めて困難になる。

このように、一次的には「成功」に見えた施策が、二次的には自らの首を絞める結果につながる可能性があるのです。

政策の例:ある川の生態系保護
ある川で外来種の魚が増え、在来種が減少しているという問題が起きたとします。

一次思考:外来種が問題だ → 駆除剤を川に散布しよう → 外来種が減る。

二次思考:外来種が減る。そして、どうなる?

  • 駆除剤が、ターゲット以外の在来種や水生昆虫、植物にもダメージを与え、生態系全体を破壊してしまうかもしれない。
  • 外来種を捕食していた別の生物(鳥など)の餌がなくなり、別の問題が発生するかもしれない。

このモデルをどう活かすか

セカンドオーダー思考は、意識的なトレーニングによって誰でも身につけることができます。

  • 「そして、どうなる?」と問い続ける
    何かを決断するとき、まず一次的な結果を想定します。そして、その結果に対して「そして、どうなる?」という問いを、少なくとも3〜5回は繰り返してみましょう。
  • 時間軸を広げて考える
    その決断がもたらす影響を、「10分後、10時間後、10日後、10ヶ月後、10年後」というように、さまざまな時間スケールで想像してみます。短期的な利益が、長期的な損失に繋がっていないかを確認できます。
  • 関係者の視点で考える
    自分の決定が、顧客、競合他社、従業員、社会全体など、他の人や組織にどのような連鎖反応を引き起こすかを考えてみます。

まとめ

一次思考だけで下される判断は、多くの場合、表面的で最適とは言えません。複雑に絡み合った現代社会において、一つの行動は波紋のように広がり、予期せぬ結果を生み出します。

セカンドオーダー思考は、その波紋の広がりを予測し、凡庸な結論を避け、より深く賢明な意思決定を行うための鍵となります。目に見える現象の裏に隠されたシステムの動きを読み解くこの思考法は、短期的な成功だけでなく、持続的な成功を目指すすべての人にとって不可欠なスキルと言えるでしょう。

コメント