見えない「循環」が未来を変える|フィードバックループでシステムの本質を読み解く

メンタルモデル

見えない「循環」が未来を変える
フィードバックループでシステムの本質を読み解く

フィードバックループ(Feedback Loop)

マイクをスピーカーに近づけすぎると、「キーン」という甲高い音が鳴り響き、どんどん大きくなっていく現象を経験したことはありませんか。これは、スピーカーから出た音(結果)が再びマイクに拾われ(原因に影響)、さらに増幅された音(新たな結果)としてスピーカーから出力される…というプロセスが、瞬時に繰り返されることで起こります。

このように、ある行動の「結果」が、時間を経て巡り巡って、元の行動の「原因」に影響を与える、閉じた因果関係の循環。これが「フィードバックループ」の基本的な構造です。この見えない「循環」のパターンを理解することは、なぜ物事が雪だるま式に良くなったり悪くなったりするのか、あるいは、なぜなかなか変わらないのか、といったシステム全体の振る舞いを解き明かす鍵となります。

フィードバックループの二つの顔:「アクセル」と「ブレーキ」

フィードバックループには、全く逆の働きをする二つの基本的な種類があります。この二つを区別することが、システムを理解する第一歩です。

1. 正のフィードバックループ(自己強化型ループ):変化を加速させる「アクセル」

これは、ある方向への変化が、さらにその方向への変化を促進し、増幅させていくループです。「もっと、もっと」と拍車をかけ、物事を指数関数的に成長させたり、あるいは破滅的な暴走を引き起こしたりします。雪だるまが転がりながらどんどん大きくなっていくイメージです。

  • 好循環の例:
    • 人気が人気を呼ぶ:あるレストランの評判が口コミサイトで高まる(結果)と、それを見た新しい客が訪れ(原因に影響)、さらに良い口コミが増えて(新たな結果)、人気が爆発する。
    • 自信の好循環:新しいスキルに挑戦し、小さな成功体験を得る(結果)と、自信がつき(原因に影響)、さらに意欲的に挑戦して(新たな結果)、ますます成長していく。
  • 悪循環の例:
    • 雪崩:山頂の小さな雪の塊が滑り落ちる(結果)ことで、周りの雪を巻き込み(原因に影響)、さらに大きな雪の塊となって(新たな結果)、巨大な雪崩へと発展する。
    • 貧困の悪循環:貧困のために十分な教育を受けられない(結果)と、良い職に就けず収入が低いままとなり(原因に影響)、その子供もまた十分な教育を受けられない(新たな結果)、という状況が繰り返される。

2. 負のフィードバックループ(バランス調整型ループ):安定をもたらす「ブレーキ」

これは、システムの状態が、ある目標や基準からズレたときに、それを元の状態に戻そうとする、安定化のためのループです。「行き過ぎ」を検知して、それを抑制するように働きます。生物の持つ「恒常性(ホメオスタシス)」は、この負のフィードバックループによって維持されています。

  • 体温調節:私たちの体温が上がりすぎる(基準からのズレ)と、発汗が促されて体温が下がり、元の体温に戻ろうとします。
  • 在庫管理:ある商品の在庫が過剰になる(基準からのズレ)と、企業は生産量を減らし、在庫が適正水準に戻るように調整します。
  • エアコンのサーモスタット:部屋の温度が設定温度より高くなる(基準からのズレ)と、冷房が作動し、設定温度に達すると自動的に停止します。

このモデルをどう活かすか

フィードバックループの視点を持つことで、私たちは物事の表面的な現象に惑わされず、その背後にあるメカニズムに働きかけることができます。

  • システムの振る舞いを予測する:あるシステムの中に、どのような正と負のフィードバックループが働いているのかを特定することで、そのシステムが将来どのように振る舞うか(暴走するのか、安定するのか)を予測しやすくなります。
  • 好循環をデザインする:望ましい結果(例:顧客満足、社員の成長)が、さらに次の望ましい行動を促すような「正のフィードバックループ」を、意図的に仕組みに組み込むことが重要です。例えば、成果を出した社員をきちんと評価・称賛する制度は、本人のモチベーションを高め、さらなる成果へと繋げる好循環のエンジンとなります。
  • 悪循環を断ち切り、問題を根本解決する:問題が繰り返し発生する場合、その裏には必ずと言っていいほど、意図しない「悪循環」が潜んでいます。そのループのどこか一箇所を特定し、断ち切ること(例:悪循環の原因となる情報を遮断する、ルールを変えるなど)が、根本的な問題解決につながります。

まとめ

フィードバックループのモデルは、物事が単純な「原因→結果」という直線で動いているのではなく、常に「原因→結果→新たな原因…」という円環の中で動いていることを教えてくれます。それは、システムの振る舞いを支配している「見えないエンジン」や「制御装置」の設計図を読み解くための、強力なレンズです。

この視点を身につけることで、私たちはなぜ問題が起こるのかをより深く理解し、場当たり的な対処ではなく、システムの構造そのものに働きかけることで、望ましい未来を自らの手でデザインしていく力を手に入れることができるのです。

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